先生がこちらに配慮し


先生がこちらに配慮してくれるんだったよな?」

「ああ、たま。新撰組に関しては、弁天台場で降伏する。そのあたりで、向こうが降伏の使者をよこすはずだ。もっとも、こちらはそれを拒否して戦いつづけるけどね。でっ結局、敗れてしまう。そのタイミングで、company formation hong kong 榎本先生は捕らえていた敵兵、つまり捕虜を解放するんだ。黒田先生はその返礼をするんだが、それがきっかけで休戦になる。その間に、こちらが降伏を決意することになる」

 


 俊冬は、おれの説明をきいてからしばらくかんがえこんだ。

 


「わんこ、すぐに黒田先生に会ってこい」

 


 そして、焚き火越しに俊春に命じた。

 


「黒田先生とは、江戸で面識があったんだろう?このまえの宮古湾の海戦のとき、おまえが茶番を演じている間、かれはおまえをずっとみていた。おまえも気がついていただろう?」

 


 たしかに、黒田は薩摩の戦艦「春日」からずっと俊春をみていた。

 


 ってか、あの大舞台は、あそこにいた全員が見守っていた。

 


 俊春をみていたのは、黒田だけではない。

 


 敵の陸軍参謀とは、江戸の薩摩屋敷で面識がある。

 


 もっとも、かれに関しては呑兵衛という印象が強いが。

 


 実際、かれは明治期に入っても酒のトラブルに関する逸話がおおい。

 


 それは兎も角、かれとは俊春相手に剣術の勝負をしたときに、協力して俊春と戦ったことがある。

 


「うん」

「念のためだ。史実に添うよう、誘導しておけ」

「……」

 


 俊冬の命令に、俊春のが地面に落ちた。

 


「なにをしている。さっさといけ。夜明けまでにもどってこい」

 


 俊冬はイラついたような、不機嫌そうな、そんな声音で俊春をせかした。

 


「わかったよ」

「まてっ」

 


 俊春が渋々立ち上がりかけたところを、副長がとめた。

 


「必要ない」

「いえ、必要です」

 


 俊冬は、副長に逆らいはじめた。

 


 俊春は、腰を浮かしかけたままその二人をみている。

 


 もちろん、おれもである。

 


「副長のおっしゃりたいことは、おれも重々承知しています。ですが、万全を期しておきたい。史実という不確定要素だけでは、安心できないのです」

「ならば放っておけ。おまえらは、必要以上のことをやってくれた。これ以上、犠牲になる必要はない」

「あなたのおっしゃることは身勝手です。すこしでも戦がはやくおわるのなら、一人の犠牲くらい安いものです」

 


 いまにもつかみあいの喧嘩がはじまりそうな雰囲気である。

 そんな緊張感漂う中、おれに出来ることはハラハラ見守るくらいである。

 


「なにをしている?っ、はやくいけ」

「くそっ!いいかげんにしやがれ」

 


 俊春は、おろおろしている。

 


 が、俊春にとっては俊冬の命令こそが最優先になるのだろう。

 


 かれは無言でうなずくと、立ち上がった。そして、てばやく戦闘用ナイフを腰のベルトに差しこみはじめた。

 


「とめろ、主計」

 


 って副長、そう言われましても。

 


 わけがわからぬまま、俊春の腕をつかもうとした。

 


 それよりもはやく、相棒がかれのズボンの裾を噛んだ。

 


「そこまでしていくというのなら、いっそ黒田を殺ってこい」

「副長、それはダメです。黒田先生は、終戦後にわれわれにたいしてつねに味方でいてくれるのです。かれを失うことは、史実云々より味方の多くの人々の将来をも悪くしてしまいます」

 


 いきなり暗殺命令をだした副長に、ソッコーでダメだしをしてしまった。

 


 黒田は、いろいろ配慮してくれる。そのかれがいなくなれば、配慮してくれる人がいなくなる。

 


 極端な話、擁護してくれる黒田がいなくなれば、それこそ処刑される者がめっちゃ増えてしまうかもしれない。

 


 榎本や大鳥をはじめ、本来なら助かる多くのが失われるかもしれないのだ。

 


 ゆえに、を暗殺するだなんてとんでもない。

 


「おれも主計に賛成です。だからこそ、をいかせるのです」

「それが気に入らぬといっているんだ」

「あなたが気に入る気に入らないではない。黒田先生自身が気に入るか気に入らないか、です」

 


 いまの俊冬の反論で、副長が躍起になって俊春を止めている理由にやっと思いいたった。

 


 やはり、おれは鈍感だ。

 


「俊春、やめろ。やめてくれ。きみが、きみがなにも……」

 


 いいかけたところに、俊春が自分の口の前で指を一本立てた。そして、その指をおれの唇に軽くおしつけてきた。

 


 たったそれだけの仕種なのに、それがやけに艶めかしく感じられ、ドキッとしてしまった。

 


「副長、主計。ぼくは、そういう駆け引きがうまいのです。なにも黒田先生に抱かれ、かれをモノにするわけじゃない。ぼく自身が餌になってかれの鼻先にぶら下がり、かれを思いどおりに操るのです。ぼくは、そういうことだってお手の物なのです。だから兼定兄さん、放してよ」

 


 かれは、おれの唇から指をひいた。

 


 そのタイミングで、相棒がかれを解放した。